誰かの朝

a light house in the middle of a body of water

 なぜだか4時に目が覚めてしまった。7月半ば、確か今日の最高気温は36℃と天気予報が言っていた。ゴロゴロ転がってみるがどうも寝付けない。そのうち喉が渇いていることに気づいて麦茶を飲みに行く。起きるのは早くても7時、の生活リズムであるので、それよりもはるかに浅い時間に自分が直立し歩いているのが不思議な感じがする。冒険をしているみたいだ。そっと歩く。まるで大切な誰かの眠りを壊さないためのように。
 暗い部屋で麦茶を飲み干したあと、ベランダに出て外を眺めてみる。街灯が夜の時間を引きずったまま、世界は光の気配に満ちていた。静かだ。溜息すらも響き渡りそうだ。

 空気が私を受け入れるころ、耳が高く短い鳥の声を拾う。遠く間を置いて車がアスファルトを削る音がする。荷物も持たず道を横切る誰かの頭が見える。何をしているんだろう。どこに行くんだろう。それとも帰るのかな。ひんやりとした心地よさを頬に感じながら、もう既にゆるゆると外界が動いているのを知った。元から止まってなどいないんだろうけど。まだ肌に優しい大気の底には、光の粒が含まれている。確かにそこには朝があった。

 でも私の朝はまだ少しあと。もう一度おやすみ。

#田淵短文

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